2013年2月22日金曜日
「世界陰謀論」考(弐)
試しに「世界陰謀論」でGoogle検索してみると、2013年2月22日時点で、以下の順序でサイトがヒットする。「陰謀論の一覧 - Wikipedia」、「世界の陰謀論10選 | ロケットニュース24」、「陰謀論 - アンサイクロペディア」、「ユダヤ陰謀説のウソ」……。で、僕はやっぱりウィキペディアさんに情報を求めたりする。
この思考、つまり「ウィキペディアさんに情報を求めたりする」行為は、非常に危険なのは承知している。精度にも問題があるかも知れないし、誰が責任を持って記述しているかも不明だからだ。けれど、コンビニの500円本が大好きな僕にとっては、その辺のところは「まあ楽しめればいいんじゃないの」的に捉えている。
で、今回は「世界陰謀論」考の第二回。前回同様、いや、他の記事同様、あくまでも僕による僕のためのメモとして、“ネット公開情報をまとめてみる作業”をしてみる。デジタル化された、つまり電子データ化された、あるいは一度「0」と「1」のビットに分解され結合された情報の個人的収集。本稿には新発見はないはずだ。
で、今回注目したいキーワードは『シオン賢者の議定書』。英語では「The Protocols of the Elders of Zion」。この文書についてはいろいろ表現されている。「ユダヤ人の恐るべき悪魔的世界征服計画陰謀書」だったり「20世紀最大の怪文書」だったり。あるいは「ユダヤ指導者による世界の操りプロジェクト」だったり、「ユダヤ王国再興世界支配計画」だったり。
『シオン賢者の議定書』は、「秘密権力の世界征服計画書」という触れ込みで広まった会話形式の文書という。1890年代の終わりから1900年代の初めにかけてロシア語版が出版。以降、『ユダヤ議定書』、『シオンのプロトコール』、『ユダヤの長老達のプロトコル』とも呼ばれるようになったものという。
ユダヤ民族がいかに非ユダヤ人を含めた世界を統治していくか、がその内容。「世界征服マニュアル」だ。それは政治・経済から教育、報道についてまで幅広く網羅したマニュアルで、実に巧みな統治制度が提示されている。それは「偽書だ」と言っても信じない人がいてもおかしくないほどのリアルさがあった。
実際、現代の財界などでのユダヤ人の優勢などを見ると、符合部分も少なくないという。こんな表記もあるようだ。「われわれユダヤ人は、…中略…、非ユダヤ人のとうてい考え及ばぬ数々の誘惑手段を考案し、彼らを意のままに操縦してきたが、こうした頭脳手腕にかけてはユダヤ人は専門家である」。
その内容はさておき、ウィキペディア該当ページ冒頭では、「ユダヤ人を貶めるために作られた本」説が紹介されている。ゆえに「ドイツのナチスに影響を与え、結果的にホロコーストを引き起こしたとも言えることから『史上最悪の偽書』、『史上最低の偽造文書』とも呼ばれている」。信用ならぬでっちあげ本ということだ。
『シオン賢者の議定書』には、さまざまなネーミング、あるいはレッテルが貼られている。それだけ、実に興味深い文書なのだ。「で、一体この文書は何なんだよ!」となる。この文書は1897年8月29日から31日にかけて、すなわち3日間、スイスのバーゼルで開かれた「第一回シオニスト会議」の席上で発表されたという体裁の文書。
ちなみに「シオニスト会議」とは「ユダヤ人代表会議」のことで、「パレスチナにユダヤ人のための、国際法によって守られたふるさとを作る」目標があった。で、『ユダヤ議定書』あるいは『史上最悪の偽書』は、この会議での「シオン二十四人の長老」による決議文であるという体裁をとっている。
そしてウィキペディアでは「1890年代末から1900年代初めにかけてロシア帝国内務省警察部警備局により捏造されたとする説が有力」と話しを進める。「1920年にイギリスでロシア語版を英訳し出版したヴィクター・マーズデンが急死したため(実は原因は伝染病)、そのエピソードがこの本に対する神秘性を加えている」。
一般人だけでなく、あのヒトラーなども「秘密権力の世界征服計画書」を熱狂的に支持した。ヒトラーはこんな風に支持した。「歴史的に真実かどうかなどはどうでもよい。内容的に真実であれば体裁などは論ずるに足らん」。そして最終的にホロコーストを実施した。通説では600万人以上が犠牲者となった。
“出火元”ロシアでは、ソビエト時代になると発禁本とされた『ユダヤの長老達のプロトコル』。同書の所持でも死刑があり得たという。研究者からは、既に発行されていたモーリス・ジョリー著『マキャベリとモンテスキューの地獄での対話』(1864年)との表現上の類似性が指摘されている。
この「地獄対話」は、イタリア・ルネサンス期の政治思想家「マキャベリ」の名を借りて、“フランス第二帝政の皇帝”の「ナポレオン3世」が行っていた“非民主的政策”と“世界征服への欲望”をあてこすったものであるいう。代表作に『レ・ミゼラブル』があるヴィクトル・ユーゴーも、「ナポレオン3世」を痛烈に批判していた。
『シオン賢者の議定書』は、地獄対話の内容の「マキャベリ(ナポレオン3世)」の部分をユダヤ人に置き換え、大量の加筆を行ったものとされるらしい。それが判明し、1921年に英誌『タイムズ』は『シオン賢者の議定書』が偽書であると暴露した。「ユダヤ人の世界陰謀説なんてもんはねーよ!」とばらした。
『タイムズ』の編集部による『マキャベリとモンテスキューの地獄での対話』と比較した報道のため、英国では「陰謀論」熱は冷めてしまった。けれど彼の地ドイツでは違った。「オカルト」を政策の宣伝として積極的に利用、その中で本書も反ユダヤ主義の根拠として積極的に利用していった。
諸々を省略すると、「このようにプロトコルは出所も作者も曖昧だが、後年、幾つかの状況証拠から、いずれにせよ当時フランス国内で諜報活動を行っていたロシア秘密警察の幹部が部下に命じてパリで捏造したものとみられている」とある。
「数多ある偽造文書の中でも、この『シオン賢者の議定書』ほど、人類にとって災厄をもたらしたものは例がない」と言う人もいる。けれど信じた人がいた。信じた人がいたことで、あるいはあえて信じたことで、多くの命が失われた。つまり“陰謀論”は利用される存在でもあった。
ただ、実際には世界に「陰謀」は無くはないと思われる。単純な構造であれ。経済・軍事大国の米国による世界統治思想は世界に影響を与えているだろうし、某宗教団体の政党・政治活動を通じた社会的影響力の強化、世界的大企業によるロビー活動もある。というわけで、引き続き「世界陰謀説」考をしていってみる。
ちなみに、『シオン賢者の議定書』の「われわれ」の部分を自分あるいは身内の仲間たちに置き換えてみると、世界征服は可能なのであろうか。であるならば、「世界征服マニュアル」を活用している連中はいるのだろうか。いや、もしかしたら、例えば某大学の学閥みたく、すでに活用されているのかも知れない。
◇つづく
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