また一人、僕ら人類は、「知の巨人」を失った。文化人類学者の山口昌男が、先日逝去した。「スポニチ」では、こう報じている。「フィールドワークに基づく独自の文化理論で知られる文化人類学者で元札幌大学長の山口昌男(やまぐち・まさお)さんが10日午前2時24分、肺炎のため東京都三鷹市の病院で死去した。81歳。北海道出身」。
「知の巨人」研究の第3弾は、彼を偲び、敬称略で山口昌男。スポニチはこう経歴をまとめている。「1955年に東大国史学科を卒業後、麻布中教諭を経て、東京都立大(現首都大学東京)大学院で人類学を学んだ」。「65年から東京外語大アジア・アフリカ言語文化研究所を拠点に、アフリカやインドネシアなどの現地調査を続けた」。
アフリカやアジアなどでのフィールドワークでは何をしていたか。というと、「両性具有(インターセックス)」や「トリックスター」をテーマとした研究。トリックスター とは、神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を引っかき回すいたずら好きとして描かれる人物のこと(by Wikipedia)。その成果は『中心と周縁の理論』で発表した。
スポニチ記事を続けると、山口昌男は「構造主義や記号論を日本に紹介したほか、現地調査を基に社会秩序の生成過程を解明した『中心と周縁理論』、道化の役割に注目した『トリックスター論』などで70年代から80年代の文化状況をリード」。「歴史から政治、芸術までを横断する圧倒的スケールの知の巨人として」、同時代に大きな影響を与えた。
この「圧倒的スケールの知の巨人」という表現、最大限かつ最高峰の褒め言葉だ。実にうらやましい頭脳・行動力があった。「90年代以降は福島県の廃校からの文化発信活動や、99年に学長に就いた札幌大で独自の大学運営を展開するなど、既成の枠にとらわれない自由な発想で行動した」。つまり、学問領域の枠を超え、日本の思想・文化をけん引した。
「東京外語大名誉教授。アジア・アフリカ言語文化研究所所長、静岡県立大教授のほか、ナイジェリア、メキシコなど海外の大学でも講じた。酒場や見せ物といった“祝祭的”な現場を愛する行動派の知識人で、自ら漫画も描き、フルートやテニスを楽しんだ」。他紙の報道と比べ、スポニチ記事が一番まとまっているし分かりやすい。から借用してみた。
2011年、文化功労者。著書に『アフリカの神話的世界』『知の遠近法』『歴史・祝祭・神話』『文化と両義性』など。96年『「敗者」の精神史』で大佛次郎賞受賞。残念ながら僕は『知の遠近法 』(岩波現代文庫)にしか触れたことがない。というわけで、今回の訃報を、僕は「圧倒的スケールの知の巨人」の著書に触れていくきっかけとしていきたい。
◇合掌