2013年3月19日火曜日
「世界陰謀論」考(参)
『金融のしくみは全部ロスチャイルドが作った』(徳間書店)という本。僕はだいぶ前に読んだけれど、「ロスチャイルド家」研究には欠かせない一冊だった。「トンでも本」と認定している人もいる。「金融システム自体が悪みたいに書かれてあるから納得いかない」という批判もある。「引用元が信用できない」とか「ウソっぱち」とか。
その指摘はあまり間違っていないかもしれない。にしても、一つの世界観を提示する読み物としては面白い。つまりは「金融のしくみは全部ロスチャイルドが作った」という世界観。Amazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」では、 『全部わかった! 国際銀行家たちの地球支配/管理のしくみ』をはじめとする“そっち系”が出てくる。
ついでだからもう少し列挙すると『闇の世界金融の超不都合な真実 ロックフェラー・ロスチャイルド一味の超サギの手口』とか、『世界恐慌という仕組みを操るロックフェラー』とか、 『9・11テロの超不都合な真実―闇の世界金融が仕組んだ世紀の大犯罪』とか。 『次の超大国は中国だとロックフェラーが決めた〈上〉技術・諜報篇』とかもある。
要するに、僕が好きな“そっち系”のオンパレードになる。「ロスチャイルド家」関連本に、米国の大富豪一族「ロックフェラー家」があるのは興味深い。シカゴ大学とロックフェラー大学を創設した石油王、ジョン・ロックフェラーの一族。彼の息子は、ニューヨーク最大の不動産所有者になり、その息子は米国の第41代副大統領になった。
「ロックフェラー家」についてはまた今度整理してみるとして、今回は「ロスチャイルド家」について。ということで、『金融のしくみは全部ロスチャイルドが作った』にも簡単に触れておく。ちなみに“世界の金融と産業を牛耳るユダヤ財閥の秘密”を書いた『ロスチャイルド家』 (講談社現代新書)を参照しないのは、こっちはややマニアックだから。
著者・安部芳裕氏は、1964年生まれ、関東学院大学卒業、「反ロスチャイルド同盟」主宰という。彼は国際金融資本が構想した「中央銀行制度」を批判する。またウォール街の錬金術に着目。投資銀行がマネーを生み出すための詐欺的なカラクリを“暴く”。たとえば、物々交換をしている村の住民に、銀行家が利子付きでお金を貸すところから。
借金をしたことで、村は活性化する。けれど、返済日に銀行家への利息が払える「勝ち組」と払えない「負け組」が生まれる。「負け組」は返済分と利息分を支払うために、身を粉にして労働をし続ける運命に追い込まれる。弱者は強者の奴隷になっていく宿命を固定化していく金融の仕組み、カラクリ。全部ロスチャイルドが作った、という。
ウィキペディアでは「ロスチャイルド家」はこう解説されている。「ロスチャイルド家(Rothschild)は、元来ユダヤ系ドイツ人の一族であり、18世紀からヨーロッパの各地で銀行を設立し、現在に至っている」。ディアスポラのユダヤ人、いわゆる“アシュケナジム”。南欧諸国に定住した“セファルディム”とともに、ユダヤ社会の二大勢力の一つだ。
「現在、ロスチャイルド家が営む事業は主にM&Aのアドバイスを中心とした投資銀行業務と富裕層の資産運用を行うプライベート・バンキングが中心」。「ドイツ語読みでロートシルトと呼び習わすこともある(赤い盾の意味)」。立派なロスチャイルド家(ロートシルト家)の紋章もウィキペディアでは紹介されている。その解説はこんな。
「この紋章は1822年にオーストリア政府(ハプスブルグ家)より、男爵の称号とともに授けられた」。ちなみにこの「ハプスブルグ家」は、オーストリア大公国をはじめ、スペイン王国、ナポリ王国、ハンガリー王国などなどの大公・国王・皇帝の家系。“源氏性を自称した日本の徳川家”みたく、ハプスブルグ家はユリウス一門(カエサル家)の末裔を自称した。
そんな超名門・ハプスブルグ家から授かった紋章は、「盾の中には5本の矢を持った手が描かれ、創始者の5人の息子が築いた5つの家系を象徴している」。「盾の下には、ロスチャイルド家の家訓であるConcordia, Integritas, Industria(調和、誠実、勤勉)という銘が刻まれている」とある。最高級ブランドの一族からの紋章、最高級の箔付けだ。
「ロスチャイルド家」研究第一弾の今回は、ざっくりなまとめだけにしときます。その初代は、初代“アシュケナジム”のマイアー・アムシェル・ロートシルト(1744-1812年)。彼は神聖ローマ帝国・帝国自由都市フランクフルトのゲットー(ユダヤ人隔離居住区)で、銀行家の4男として生まれた。一族の家紋は、父親が開いた銀行の紋章でもある。
「ロスチャイルド財閥」の発端は、マイアーがドイツで開いた古銭商・両替商。彼はヘッセン選帝侯ヴィルヘルム1世との結びつきで、その経営の基礎を築いた。そして欧州各地に支店を置き、ネットワークを構築。彼の5人の息子が、フランクフルト、ロンドン、パリ、ウィーン、ナポリの各支店を担当した。この5人兄弟の助け合いが一族の繁栄をもたらした。
特に「総司令官」と呼ばれたロンドンのネイサン(1777-1836年)と、末っ子のパリのジェームスが大成功。「ネイサンはナポレオンが欧州を席巻する中で金融取引で活躍し、各国に戦争の資金を融通」。また「ワーテルローの戦いでナポレオン敗退の報をいち早く知ると、英国債の空売りによる暴落を誘導後に一転買占めた取引で巨額の利益を得」た。
いわゆる「ネイサンの逆売り」だ。独自の情報網でナポレオン敗北の報をいち早く入手したネイサンは、セオリーと逆に猛烈な売りに出た」。これに市場は「ナポレオン勝利」と判断。即座に反応して売りが集中、株価は暴落した。そこでネイサンは一気に買いに転じ、多くの株を紙屑同然の値段で取得。その量は、何と上場されていた全国債の62%に上る。
この「ネイサンの逆売り」で、ネイサンは英国金融界での地位は盤石に。一方、末っ子ジェームスは「当時の成長産業だった鉄道に着目し、パリ~ブリュッセル間の北東鉄道を基盤に事業を拡大」。天然資源の採掘事業にも融資した。1868年に死去した時の遺産は6億フラン以上で、これはフランス全金融業者の総資産推定額・1億5000万フランの4倍の値だったという。
ジェームス系、「パリのロスチャイルドは、1870年に資金難にあえぐバチカンに資金援助を行うなどして取り入り、その後ロスチャイルド銀行は、ロスチャイルドの肝いりで設立されたバチカン銀行(正式名称は「宗教活動協会」、Instituto per le Opere di Religioni/IOR)の投資業務と資金管理を行う主力行となっている」。
ネイサン系、「ロンドンのロスチャイルドは、政府にスエズ運河買収の資金を提供したり、第一次世界大戦の際にパレスチナでのユダヤ人居住地の建国を約束させる(バルフォア宣言:後のイスラエル建国につながる)など、政治にも多大な影響力を持った。特に保守党(トーリー党)のディズレーリとの政商関係が有名」。
最後に、一族の企業設立や資本家支援について記述された「企業や資本家への支援事業」の項を参照。支援企業は、世界最大のダイヤモンド採掘量を誇るデビアスをはじめ、鉱物メジャー大手のリオ・ティント、イギリスの生命保険最大手のRSA・インシュアランス・グループ、JPモルガン・チェースやモルガン・スタンレーの前身など錚々たる面子。
もっかい紋章について振り返る。「盾の中には5本の矢を持った手が描かれ、創始者の5人の息子が築いた5つの家系を象徴」。「盾の下には、ロスチャイルド家の家訓であるConcordia, Integritas, Industria(調和、誠実、勤勉)という銘が刻まれている」。この紋章の下、現在も「ロスチャイルド」一族は世界経済に君臨している、という陰謀論。続きはまた今度。
◇つづく