2012年7月9日月曜日

「ヒッグス粒子 発見」考(前編)



「ヒッグス粒子 発見」と、新聞などで大々的に報道された「ヒッグス粒子」。文系人間が集う新聞社やテレビ局は、その凄さを何となく伝えられてはいたものの、きっと記者やキャスター自身が“何となく”しかその凄さを感じられていないと思われる。

だから、とりあえず「これは歴史的快挙」「世界が変わる第一歩」みたいなことを言っている科学者や有識者らの声を流し、適当に、それなりにインパクトが大きい風にする。たとえば、『ホーキング博士は発見について「重要な結果だ」と話し、提唱者のピーター・ヒッグス英エディンバラ大名誉教授(83)を「ノーベル賞に値する」と称賛した』とか。

ニュースメーカーの宿命としてあるのが、その事実が理解不能だとしても「とりあえず」、重要っぽいもの重要っぽく速報しておく、ということ。原発問題もそうだ。軽々しく「原発は……」と話すことは難しいくらい、込み入った原子物理学、核構造物理学などの数式や仕組みがある。科学の世界だから、何にせよ「100%とは言い切れない」と反対・賛成意見を表明したりすることは、誰もが可能だけれど。

なんて、そんなことを言っていては、科学世界における「世紀の発見」はいつまで経っても報道できなくなってしまう。というわけで、米国CNNでは、『欧州合同原子核研究機関(CERN)は4日、質量の源の解明につながるといわれている「ヒッグス粒子」と性質が一致する新しい粒子を発見したと発表した』と報道。

続けて、『「自然を理解する上で画期的な節目にたどり着いた」と、CERNのロルフ・ホイヤー所長は述べた。CERNは世界最大級の粒子加速器である大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使い、ヒッグス粒子の探索にあたってきた』。うんぬん。とにかく一般人は「ヒッグス」を知らないから、前置きが長い。僕のこの文章も同様だけど。

ちなみに、今回の発表は暫定的なもの。さらなる検証が必要で、CERNは声明で「今回の観測結果の全体像は今年後半に明らかになるだろう」としている。つまり、現段階では確定してないけれど、“ほぼ確定だから、今回の発見を喜んでいいみたいだから、喜びましょう”、ということ。そんなニュースだ。

SankeiBizでは、こんな風にまとめられている。『ヒッグス粒子とみられる新粒子の発見は、素粒子物理学の新たな時代の幕開けを告げる画期的な成果だ。「最後の粒子」の存在が確定すれば近代物理学の金字塔である「標準理論」が完成し、物質に対する理解の正しさが証明されることになる。物理学の偉大な勝利が目前に迫った』。

『物質の究極の姿と基本法則を探る素粒子物理学は20世紀初頭以降、アインシュタインの相対性理論とハイゼンベルクらの量子力学を土台に発展してきた。日本も湯川秀樹、朝永振一郎、小林誠、益川敏英の各氏らが大きく貢献し、世界で20人以上がノーベル賞を受賞。1970年代に確立された現在の標準理論は、多くの実験で正しさが厳密に証明されており、人類の英知の結晶といえる』。

この記事の前置きはもうちょい続きそう。『素粒子は物質をつくる12種類と、物質に力を伝える5種類の計17種類がすでに確認済みだ。しかし、標準理論の重要な骨格となるヒッグス粒子だけが見つからず、半世紀近くにわたり大きな課題になっていた』。ふむふむ。そもそも素粒子って何だろう、ということは先にも触れない。

『標準理論が完成しても、それは素粒子物理学の「第一章」の完結にすぎない。宇宙を構成する物質のうち、標準理論で説明できるのは全体の4%だけで、残りの96%は正体不明の暗黒物質や暗黒エネルギーが占めているからだ。ヒッグス粒子の性質を詳しく調べれば、暗黒物質の有力候補とされる未知の素粒子の手掛かりが得られる可能性があり、素粒子研究は標準理論の枠組みを超える世界へ一歩を踏み出すことになる』。

『また、宇宙初期の急膨張がビッグバンの引き金になったとするインフレーション理論でも、ヒッグス粒子は重要なカギを握る。粒子の「発見」は物質や時空の本質に迫る新たな物理学を切り開いていくだろう』。SankeiBiz引用おしまい。なるほど。やはり「もしかしたらこの記者も結局、ヒッグス粒子についえあまり深く分かってないんじゃないか」という感じだ。

これでは「さっぱりヒッグス粒子発見の重要性が分からない!」という僕の悶々は消えない。「素粒子」とは何だろう。「標準理論」て何だろう。ヒッグス粒子を知ることで、なぜ「暗黒物質の有力候補とされる未知の素粒子の手掛かりが得られる」のだろう。てか「暗黒物質」とは何だろう。などなど。

というわけで、最後に日経新聞の記事を、まとめて無断で転載してみる。そして今後、ゆっくり、じっくり「素粒子」や「ヒッグス粒子」について、料理していこうと思う。教養程度に。ちなみに「CERN」は、『ダ・ヴィンチコード』の前作、『天使と悪魔』に出てきますね、テロに使える物質をここで生み出す設定で。

『欧州合同原子核研究機関(CERN)は4日、物の質量(重さ)の起源とされる「ヒッグス粒子」とみられる新しい粒子を発見したと発表した。2つの国際チームによる大型加速器を使った探索実験で、新粒子が99.9999%以上の確率で存在するとの結果を得た。年内にもヒッグス粒子と最終的に確認される公算が大きく、成功すればノーベル賞級の発見となる』。

 『CERNのホイヤー所長は同日、「ヒッグス粒子と(特徴が)合致する新粒子の発見に成功した」と述べた。新粒子がヒッグス粒子と確認されれば、宇宙の成り立ちの解明が大きく前進する。実験したのは、東京大学など日本の16の大学・研究機関も参加する「アトラス」と、欧米の「CMS」の2チーム』。

『CERNによると、今年6月までの実験で、両チームともヒッグス粒子とみられる新粒子が存在する確率が99.9999%以上になった。昨年末の段階ではアトラスは約98.9%、CMSは約97%の確率で、「発見の可能性が高まった」としていた。99.9999%という確率は物理学の世界での「発見」に相当するが、新粒子が予言されているヒッグス粒子とどこまで一致しているかを確認するため、今年いっぱいの実験で詰める』。

『新粒子の重さは陽子の120倍と、これまで発見された素粒子(物質の最小単位)の中では比較的重かった。宇宙の始まりである137億年前の「ビッグバン(大爆発)」で生まれた素粒子は、最初は質量を持たず光速で自由に飛び回っていた。ビッグバンの100億分の1秒後にヒッグス粒子が生まれて宇宙を満たしたため、素粒子は動きにくくなり、質量が備わったとされる』。

『実験では一周27キロメートルの円形加速器で陽子同士を光速近くで衝突させ、ビッグバンを再現。ヒッグス粒子は瞬く間にほかの粒子に変化してしまうため、飛び散った粒子の中からヒッグス粒子の痕跡を集め、存在する確率を割り出していた』。うん。脳ミソ弱めの僕には、日経記事でもさっぱりです。

◇つづく